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今週の読書「脳障害を生きる人びと~脳治療の最前線~」中村尚樹(06草思)

 「遷延性意識障害」「高次脳機能障害」「蘇生後脳症」「脳低体温療法」「閉じ込め症候群」…これらの単語をご存知の方はどのくらいいるだろう?

 最近、脳ブームだ。ちまたには脳に良い食事や任天堂DSの脳トレやら、情報が山のようにある。脳ドリルやDSは思わずやってしまうし、楽しくもある。確かに脳の機能は複雑で興味深い。好奇心をくすぐる部分がある。

 一方で上記のような脳に対する障害への関心は低いのではないだろうか?私は作家の柳田邦夫が好きで、文藝春秋などでの医療レポは目を通していたことがあったが、上記の単語の半分程度しか知識として覚えていなかった。やはり、関心が薄かったからだろう。

 この本は、私のように予備知識がなくても読みやすく作ってある。第一章では、「閉じこめられた意識」~閉じ込め症候群~についてかかれている。通学途上で事故に合い、いわゆる「植物状態」「閉じ込め症候群」と診断され、4半世紀の間様々な障害と格闘した女性、茉本亜沙子さんにスポットが当てられている。「閉じ込め症候群」とは意識不明の状態からは回復しても、体に障害が起こり、意志疎通の手段を奪われた状態であること。現在の茉本さんは体はほとんど動かないが「トーキングエイド」で意志疎通をし、「マイスプーン」で食事をし、電動車いすで移動手段も獲得している。そこに至るまでの様々な障害は筆舌に尽くしがたい。恐らく非常にまれな例であろう。もともと聡明な女性であり、障害が運動機能のみで、かつ、性格が明るく強い方であったのでは?と思う。しかし、「自立したい」という意欲はみな等しく持っており、それを実現するだけの意思と能力(これは本人にしかもてないけれど)、周辺の人間の理解とサポートとコミュニケーションがあれば不可能ではないのだな、と思う。茉本さんの場合は知的な障害が出ず、眼球の動きによって意識の回復が伝えられ、かつサポートするご家族に恵まれた希有な例なのだろう。同じように意識は回復しても伝達の手段がない方はたくさんいらっしゃるのかも?と思うと胸がふさがる。茉本さんは現在自立しヘルパーさんのサポートを受けながら、一人暮らしをされているそうである。「トーキングエイド」はナムコの商品で開発に茉本さんが一役買っている。なんと、ナムコの社員であった時期もあるのだ。実際の茉本さんの日記が(更新は止まっているようだけれど)ナムコのホームページ上にある。ご覧いただければ、勇気が出る人もいるかもしれない。

 第二章は「植物状態と宣告されて~遷延性意識障害~」では、交通事故による硬膜外血腫の影響で遷延性意識障害と診断された藤井正樹さんについてかかれている。遷延性意識障害…聞き慣れない単語だ。最初はパソコンの変換もうまくいかなかった。昔で言うところの「植物状態」ということらしい。植物という単語にはマイナスイメージが強い。一方、遷延性意識障害は意識障害が延々と続く状態を指すようだ。遷延性意識障害といういい方をすることが多いようだ。正直に申し上げると一番衝撃的だった。藤井さんうんぬんと言うよりは、このような障害を負った方への扱いについてだ。遷延性意識障害というのは病院にとっては儲からない病気らしい。藤井さんの余命は2年程度と診断され、3ヶ月ごとの転院を余儀なくされている。現在の医療制度上の問題で、医者にもいかんともしがたい問題なのだろうが、生活にまつわる全体に介護が必要な患者さんやご家族には経済的にも精神的にも負担が大きいだろう。いわゆる社会的入院(家庭や老人介護施設等の空きがなくて入院すること)を防ぐために執られた処置がこのような交通事故被害者や蘇生後脳症の人にしわ寄せとなって現れている。何とかならないモノだろうか?

 第3章、第4章では交通事故被害者のその後が描かれている。高次脳機能障害という耳になじまない単語が頻繁に出てくる。一見、一般の健常者に見えるが脳の機能がダメージを受け「言語障害」として現れたり、注意力が不足し、以前のように仕事に就ける能力を失ったりすることがある。「見えない障害」といわれているそうだ。被害を受けた方の内面の葛藤はさぞや、と思う。医療技術の進歩が生んだ新たな障害であり、これから理解を求められる障害なのだろう。

 第5章以後は脳障害からの回復やリハビリについてがかかれている。また、最近よく聞く脳ドックの落とし穴についても。脳に若干の異常が見つかり、それを手術したがために新たな障害を受けたりする事例があるそうだ。リハビリ等の感想はまた、後日アップします。

 なんだかものすごく長くなってしまった。ごめんなさい。

 脳の障害に関しては様々な形態があり、きっかけもまちまち。今作のような事例には当てはまらなかったり、奇跡といわれるような回復例もあるかもしれない。それぞれの患者さんやご家族の背景も様々で同様の対応は取れない場合も多いだろう。出会う病院の医療技術の問題もあろうし、技術はあっても心が伴わない医療機関もあるだろうし、市井の病院にも心を込めて介護するところもあるだろう。運にも左右される。多分、正解なんてない。しかし、一般の人が興味関心を持つきっかけの本としては良いのではないだろうか?知識を収集しておくのは悪くない。無関心が一番の罪なのかもしれないのだから。ちなみに今作は大阪のいちごいちえさんのブログがきっかけで知った。脳の障害に詳しくない私もいちごさんのブログのおかげで色々と知ることができました。快く、リンクを貼らせていただいたことに、感謝いたします。いちごさんとご家族に良いことが起こりますように、お祈りしています。

脳障害を生きる人びと—脳治療の最前線

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コメント

onomotさん、こんにちは。
こちらからはトラックバックさせていただきました。
私のblogにお返事を書かせてもらっていますが、onomotさんがこうやって記事を書いて情報を発信してくださったことは、同じような状態の人の家族にとって大きな慰めと励ましになります。
私も、とても励まされました。ありがとうございます。

投稿: いちごいちえ | 2007年7月29日 (日) 16時37分

 早速ありがとうございます。私もトラックバックを試みましたが、どうも会員登録が必要なようで…会員登録がうまくいかず(ウィンドウズ98なのがいけないのかな?)…。けれどもいちごさんに読んでいただけただけて本当にありがたいと思っています。どうがんばってもご家族より多くの時間は過ごせないので、いちごさんの生の声は私にも参考になりました。
 友人のお母さんが「守っているよ」とメッセージを刺繍されていました。私が直接守ることは越権行為でできませんが…伝手が少しでもあれば、また、彼を励ましたいという人があればできるだけ、協力したいなと思っています。
 第3者である医療関係者にも人を通じて、話を聞きました。きびしい話もありました。しかし、この方は「専門分野ではないが、医療関係者として、できる限りのことはするし、ご家族が病院を気に入ってくださることが一番。」とおっしゃたそうです。
 希望を持って彼の行く末を祈っていきたいと思っています。友人と過ごした時間は今の辛さと比例して、すごく楽しい時間だったので。
 また、いちごさんのサイト&本棚にも遊びに行きますね。私も結構読書好きなので。

投稿: onomot | 2007年7月29日 (日) 23時22分

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